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「快寿社会を 目指して」

ユニエイジの時代に求められるアンチエイジング医療!
抗加齢医学の「抗」はマイナスに対して起こす行動の事!

現代社会は80歳を超えても世界最高峰のエベレストへの登頂も可能になる一方で、小学校から起業家を育てようといった新しい教育の形も進んできており、今まで年齢で分けられていた社会構造の分類が曖昧になって、これからは「ユニエイジ」の時代になってくるのではないかと思う。こういった時代になると、年齢で何かを分類するというよりも、どんな年齢であっても、健康で社会に貢献できるか、または何らかの理由でそれが出来ないかといった分け方になってくるのではないかと思う。

加齢による老化に関しては、表現型として、認知力の低下や筋力の衰え、骨粗鬆症、内臓脂肪の増加、心血管機能の低下、不眠などがあげられる一方で、医学的な変化の項目としては酸化ストレスや免疫応答、持続性の炎症、概日周期、自律神経系の不調などがある。しかし、これらの根本的な原因は、我々が持っている遺伝子が活性酸素によって障害を受けたり、不安定になることに尽きる。つまり、活性酸素は細胞の老化に非常に重要な役割を持つ。

若い時はこの活性酸素の消去能が高いが、加齢とともにその能力が落ちる。多くの病態が酸化ストレスの発生を増加させることがわかってきており、この活性酸素の発生をいかに減らすかが抗加齢医学の1つの大きな目的になる。活性酸素は食事から摂取したカロリーをミトコンドリアでエネルギーに変換する際に発生するため、そもそも摂取されるカロリーを制限することもその対策の1つとなる。実際にカロリーを制限すると長寿になることが様々な動物を使った試験で明らかになっている。

このカロリー制限は、長寿遺伝子と言われる「サーチュイン」のスイッチをオンにすることがわかっている。綱のようにらせん状に巻かれた状態の遺伝子は転写される時点で一旦ほどかれる。この時に活性酸素によって傷がつきやすくなるが、サーチュインはこのほどかれた遺伝子を再度しっかりと締め直してくれる働きがある。端的に言うと遺伝子に傷をつけないように防御してくれる役割を持つ。

よって、サーチュインの発生をいかに増やしていくかということが、アンチエイジングにとって非常に大事になる。具体的には、有酸素運動やレジスタンス運動、性ホルモンであるテストステロンを増やす事、COQ10やポリフェノールの摂取、PDE5阻害薬などの薬剤投与等がサーチュインの発生を増やす方法として確立されてきた。

実験室の研究から臨床へと大きな発展を遂げたアンチエイジング医療!
キーワードは「遺伝子多型」!

抗加齢医学とは、加齢に伴って生じる「負」の現象が起こらないように行動する学問領域であり、抗加齢医学の「抗(アンチ)」はマイナスに対して起こす行動という意味を含んでいる。最近はサクセスフル・エイジングやウェル・エイジングといった言葉を使った方がいいのではないかという意見もある。しかし、こういった言葉は、高齢者の社会的適応という意味ではいいかもしれないが、加齢は遺伝子にとっては絶えずマイナスがあるという事を考えると、我々医療従事者にとっては「アンチエイジング(抗加齢)」という言葉が正しいのではないかと思う。

アンチエイジング医学はここ5年ほどで急速に進歩し、今までの実験室の研究から臨床へと大きな発展を遂げている。具体的な例として、老年のネズミと若いネズミのおなかの血管をつなぎ合わせた実験では、老年のネズミの血管が太くなり、神経幹細胞が増殖し、嗅覚が発達、骨格筋も再生した。原因となる分子「GDF-11(Growth Differentiation Factor-11)」も分かってきた。今はどうやってこのGDF-11を活性化できるかを、多くの企業が注目している。

現代の医学はサイロエフェクトに陥っている。しかし、研究されたサイエンスを社会実装するためには、知を共有してサイロに横串をさすことが大事だと思う。それが抗加齢医学会のミッションではないかと思う。

抗加齢医学が今後、注力していくことの1つにゲノム医療がある。疾患にかかりやすいか、かかりづらいかという事を簡単に評価する方法として、一塩基遺伝子多型がある。個人個人によって遺伝子のある部分だけが違って、それによってアミノ酸の組成が変わりタンパク質の働きが若干違ってくる。この事がいろいろな体質の違いに関係していることがわかり、様々な疾患に関連する遺伝子多型も具体的に分かってきている。

前立腺がんは男性が罹患する一番多いがんとなっており、2000年から2020年の20年間で約3倍に増えている。疫学的には牛乳の消費量が多い国では前立腺がんの発生が多く、牛乳に含まれる動物性脂肪が関係していることが考えられている。この前立腺がんに関しては、すでに76個の遺伝子多型が同定されている。この遺伝子多型を1%持っているか10%持っているかで前立腺がんになるリスクが変わってくる。つまり遺伝子多型を調べることによってそのリスクを事前にわかることが出来、それによって介入が可能になる。

アメリカでは、医師だけでなく看護師や栄養士など専門職の人たちがチームを組んで個別データを活用しながら、がんの予防やがんになってしまった人に対して行う「スマートケア」という医療が発達しており、機能性食品や運動、ストレスマネージメントによって、実際に遺伝子発現を変えてしまうという事が行われている。これによって、がんを予防したりがんの進行を遅らせたりすることが出来る。つまり、アンチエイジングのプログラムによって疾患の予防ができる時代になってきており、医療費を削減する有力な方法としても注目されている。

アメリカでもベビーブーマー世代が65歳以上の老年期に入り、アンチエイジング分野の市場は2022年までに2兆円規模に拡大されると言われている。老年期人口が増えるからこそ新しい技術・商品開発が求められ、別の調査会社の資料によると、2021年までに世界のアンチエイジング市場は20兆円を超えてくるとの予測もある。

姉妹団体の日本抗加齢協会は日本抗加齢医学会協力して、アンチエイジングを企業や一般の方々に普及啓発するということを行っているが、その中で機能性表示食品制度に対する支援も行ってきており、この制度の定着に大きく貢献してきている。

生まれた瞬間からアンチエイジングは始まる!
「はつらつ!」を合言葉にアンチエイジング医療で幸福社会を実現!

抗加齢医学会の対象は年齢を問わず、まさに生まれた瞬間から抗加齢医学はスタートする。遺伝子の表現型を改善することも抗加齢医療の対象であり、高齢者の社会参画を阻む要因である身体的・精神的な問題を解決することもアンチエイジング医療であり、これによって「抗介護」の効果もある。

また、組織、地域における健康度(ソーシャルキャピタル)もアンチエイジングの重要な要素となる。そこで、坪田前理事長提唱したセルフ・アセスメントである「ごきげん」に加えて、自分はピア・アセスメントである「はつらつ」を提唱していきたい。社会の幸福感は支えあうアンチエイジングから始まると思う。

この度、ミッドタウン六本木や日比谷、日本橋界隈等の開発で有名なディベロッパー「三井不動産」と抗加齢医学会がオフィスや街をハツラツにするアイデアについてコラボレーションすることになった。いかにオフィスや街で働く人たちが快適に健康的に過ごせるかといった実証実験を行っている。例えばビルとビルの間の壁にボルタリングを作るとか、階段に工夫をして、階段を使う事がイニセンティブになる仕組みなどのアイデアが既に出されている。真面目なものから奇抜なものまで幅広く応募している。ぜひご協力をいただきたい。

加齢そのものが遺伝子異常を起こして病気になるのだが、遺伝子異常を防ぐメカニズムが解明され、遺伝子素質に基づく予防医療も期待されている。抗加齢医学こそが「はつらつ」とした快寿社会の実現をサポートできるのではないかと考えている。

2018年5月

一般社団法人
日本抗加齢医学会 理事長

順天堂大学大学院医学研究科
泌尿器外科学

 組織図


設立趣旨

2001年日本抗加齢研究会設立時には、すでに予見されていた超少子高齢化社会と老 人医療費の増大。 国民皆保険制度を有する我が国の福祉政策は、いずれその転換を迫 られるといった状況でありました。 そのような中、医師ならびに医生物研究者らが中 心となって設立した目的は、加齢現象や老化の研究が進む中、 老化の病的プロセスを 予防する抗加齢医学を積極的介入する方法を基礎医学的、臨床医学的に追求して実践 することにより、 生活者のQOL(Quality of Life)の向上を図る。 そして抗加齢医 療の提供により健康長寿を国民が享受し、老人医療費増加度の抑制、生産人口年齢の延 長、 労働力の確保といういわば国家戦略的な目的であります。 医学界ならびに社会 で認められるために、抗加齢医学に関する正確なデータを集積し、正しい情報を伝え、 科学的根拠・事実に基づいた医療としての確立を目指していくと同時に、人々に受け入 れられる医療となることを目指し活動を続けてまいります。

抗加齢(アンチエイジング)医学の独自性

1、健康寿命を延長するための予防医学・健康寿命を延伸する医学
抗加齢医学の研究は、出生から死亡に至るまでの様々な過程で生じる現象を科学的に 捉える上で、 非常に有意義でありその成果は生活習慣病をはじめとする様々な疾患を 予防し、ストレスや疲労、 免疫低下などの疾病発生促進因子を改善し、健康長寿を享 受することを目指す理論的・実践的科学であり、 これこそが抗加齢医学の定義であり ます。そして抗加齢医学的に重要なのは長寿の質です。 高齢者のQOL(Quality of Li fe)を向上には、アンバランスで病的な老化を早い段階から積極的に予防し、 健康寿 命を延長することにあります。

2、学祭的に捉える学問
抗加齢医学の独自性はこれまでの治療医学にみる縦割りの隔てを取り除き、多領域に わたる横断的、 集学的に研究することにより老化の関連性を把握できるにあります。  抗加齢医学の研究は、遺伝子や細胞レベルから動物やヒトの個体レベルまで幅広く、 生化学、生理学、 臨床医学など複数領域の医学にとどまらず、化学、物理学、農学、 薬学など他分野に係っています。 一方で実践は、栄養学、内分泌学を用いた補充療法 と運動・休養などの生活習慣の改善によって老化をどのようにコントロールできるかにあるのです。

3、生活者に積極的に行動変容を起こす医学
人は誰でも健康長寿を望んでいます。これまでの病気を治す医療から、老化による疾 病を予防し、健康寿命を延長することは、 人々が受け入れやすく、生活習慣の改善など 積極的な行動変容を起こす医学となりえます。